リチウムイオン電池の電極の理論容量を計算する方法

リチウムイオン電池の専門技術

電極材料の理論容量は、電池全体の容量の計算や、電極材料の量を決めるための設計に用いられる重要な量です。
こちらのページでは電極材料の理論容量の計算方法について、正極材料としてもっともよく知られたコバルト酸リチウムを例にとり説明します。
まとめ
電極(反応に関係する物質=活物質)の理論容量を計算する方法は以下の通りです。
(式1) 重量当たりの理論容量 Cm(Ah/g) = 26.81(Ah/mol)x N(mol/mol) / M(g/mol)
(式2) 体積当たりの理論容量 Cv(Ah/cm3) = Cm(Ah/g) /ρ (g/cm3)
N : 電極材料1mol当たりの反応可能な電子数(mol/mol)
M : 電極材料のモル質量(g/mol)
ρ : 電極材料の密度(g/cm3)

 

基本の考え方

基本的な考え方は以下の式1で表すことができます。

質量当たりの理論容量(Ah/g)
= 電子1mol の電荷量 x 電極材料1molあたり反応可能な電子のモル数 x 電極材料1g当たりのモル数

質量当たりの理論容量(Ah/g)を考えるために、まず”電極材料1g当たりのモル数”つまり電極材料1gが何molなのかを考えます。
これは電極材料のモル質量の逆数で表されます。
電極材料1g当たりのモル数 = 1 / M
ここでMは電極材料のモル質量(g/mol)。

”電極材料1gが何molなのか”に”材料1モルあたりの反応可能な電子のモル数N”(第2項)をかけると、”電極材料1g当たり反応する電子のモル数”が得られます。

さらに電子1molあたりの電荷量(第1項)をかければ、材料の質量当たりの容量が算出できます。
電子1モル当たりの電荷量はファラデー定数と呼ばれる値です。

ファラデー定数の値はF = 96485.33289 C/molです。
ここでは有効数字3桁として 96500 C/molの値を使います

理論容量の単位(Ah/g)に合わせるため、ファラデー定数の単位C/molを以下のようにmAh/molに変換します。
1 C(クーロン)の定義は1 As(アンペア×秒)ですので、1 C = 1/3600 Ah (1 hは3600 s)。
1 Ah=1000m Ahなので 1 C=1000/3600 mAhとなります。
よって電子1個あたりの電荷量はmAh単位で表すと以下のようになります。
96500 x (1000/3600) = 2.68×102 mAh/mol
この値を代入すると、質量当たりの理論容量は以下のように表すことができます。

質量当たりの理論容量(Ah/g)
= 26.8(Ah/mol)x N(mol/mol) / M(g/mol)   (式1)

ここでN は電極材料1mol当たりの反応可能な電子数(mol/mol)、M は電極材料のモル質量(g/mol)です。

重量当たり理論容量の算出例

ここではリチウムイオン電池の正極材料としてもっともポピュラーなコバルト酸リチウムの容量を例題として理論容量の計算をしてみましょう。

電極材料1mol当たりの反応可能な電子数 N の算出

N : 電極材料1mol当たりの反応可能な電子数(mol)
コバルト酸リチウムはLiCoO2で表されます。電極理論的にはCo1個あたりLi1個を取り出したり戻したりできます※。つまり容量はLiCoO2 1molあたり、電子1molです。
※実際にはLiがすべて抜けてしまうと結晶構造を保てなくなり反応できなくなるので、実用上は0.45程度までしか反応させることはできません

モル質量 Mの算出

M : モル質量(g)
Liの原子量は6.94、Coの原子量は58.39、Oの原子量は16であることから、LiCoO2のモル質量は、
6.96 + 58.39 +16×2 = 97.87 g/molです。
参考文献:日本化学会 原子量表2015

コバルト酸リチウムの重量当たりの理論容量

式1より
Cm(Ah/g)= 2.68×102 (mAh/mol)x 1 / 97.87(g/mol) = 273mAh/g
が得られます。

さて、答え合わせです。Materials todayという学術雑誌に掲載されている「Li-ion battery materials: present and future」という論文の表1(Table 1)にLiCoO2の理論容量(Theoretical capacity)が273mAh/gと記載されており、計算が間違っていないことが確認できました。

体積当たり理論容量の算出例

こちらもコバルト酸リチウムの容量を例題として計算してみましょう。

モル質量 Mの算出

式2によれば材料の(重量)密度ρ (g/cm3) がわかれば計算が可能です。
有名な材料であれば教科書や論文で調べることができますが、マイナーな材料だとなかなか見つからないことが多いです。そういうときは材料データベースを使うと良いです。

例えばMaterials Projectで公開されているLiCoO2(ID:mp24850)のページを見てみると、
密度は4.92g/cm3であることがわかります。

コバルト酸リチウムの体積当たりの理論容量

式2より
Cv(Ah/cm3)= 273mAh/g x 4.92g/cm3 ~ 1340mAh/g
が得られます。

おまけ:材料の物性値の調べ方

材料の情報は教科書や論文、データベースなどから調べることができます。
データベースでは下記のものが有名です。

  • Materials Project:米国エネルギー省(U.S. Department of Energy)のプロジェクトで公開されている無料でアクセスできるデータベースです。
  • ICSD:ドイツのFIZ Karlsruheから提供されている有料の無機結晶構造データベース (有料) です。
  • springer materials : 出版社であるspringer社から提供されている材料のデータベース(有料)です