全固体電池の基本

リチウムイオン電池の専門技術

最近よく聞く”全固体電池”。これって何?ほかの電池と何が違うの?これを使うことのメリットは何なの?など全固体電池の基本についてこの記事では紹介します。

まとめ
・次世代の二次電池として注目されている
・全固体電池はリチウムイオン電池の一種
メリットは①安全性が高い、②長寿命・高容量・高出力を実現できる可能性があること

全固体電池とは

 
現在、一般的に「全固体電池」と呼ばれる電池は、ほとんどの場合「全固体リチウムイオン電池」を指します。
 
全固体電池とは、リチウムイオン電池を全部「固体化」したものです。リチウムイオン電池の電解液には、リチウム塩が溶けた有機溶媒(液体)を使われています。この電解「液」を「固体」にしたものが全固体電池です。
 
※ 「全個体電池」と間違われることがありますが、固体化した電池ですので「全固体電池」が正解です。
 
 
電解液は正極ー負極間のイオン移動を媒介する役割を持ちます。全固体電池では、有機溶媒の代わりに、イオンが流れる固体を電解質として用いています。このような固体を固体電解質や、イオン電導性固体、イオン伝導体などと呼ばれます(本サイトでは固体電解質という表現に統一しています)。
 
リチウムイオン電池の構造については「リチウムイオン電池の構造」の記事にtて紹介していますので参考にしてみてください。
 
2021年現在、全固体電池はまだ量産されていませんが、各電池メーカーや電子部品メーカー、クルマメーカーは盛んに全固体電池にかかわる開発を行っています。
 
なぜ全固体電池の開発を行っているのか。それは従来型のリチウムイオン電池を全固体電池に置き換えることでメリットがあるからです。
 
以下では全固体電池の特徴について紹介します。
 

特徴1:高い安全性

一つ目のメリットは高い安全性です。
 
リチウムイオン電池は、ニカド電池やニッケル水素電池のような他の二次電池と比べて高い出力を出すことができます。例えば、ニッケル水素電池の出力電圧は約1.2 Vですが、リチウムイオン電池はその倍以上である約3.7Vの高い出力電圧を実現できます。この高い電圧はそれまで使われていた水溶液系の電解液では実現できませんでした。なぜなら、水溶液の主成分である水(H2O)の分解電圧が1.23 Vであるため、水溶液系の電池ではそれ以上高い出力電圧を実現することができないからです。
 
この課題を克服するためリチウムイオン電池では、分解電圧が高いエステルやエーテル系などの有機溶媒が電解液に使用されます。しかし、これら有機溶媒は可燃性であるため、発火の危険性には常に気を配る必要があります。リチウムイオン電池は身近な場所で使用されますので当然、高い安全性が求められます。そのため、リチウムイオン電池の内部にはにはさまざまな安全性を高める機構が組み込まれております。また、また安全性を十分に確保できるように制御側でも工夫が施されています。
 
一方、全固体電池では、可燃性の有機溶媒の代わりに不燃性(もしくは難燃性)のセラミック(酸化物や硫化物)が使われます。よって、全固体電池では従来のリチウムイオン電池と比べて安全性を向上させることができます
 
近年、リチウムイオン電池は、スマートフォンのような民生機器だけでなく電気自動車向けに使用されるシーンが増えています。自動車ですので交通事故により衝撃が加わったり火にさらされる可能性は民生機器よりも高くなります。また電気自動車では大型の電池を搭載するため万が一発火した際の規模が大きくなることも想定されます。そのため、全固体電池の高い安全性にはより一層の注目が集まっています。

特徴2:長寿命

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池と比べて寿命を長くすることができる可能性を秘めています。
 
電池は長い間使用していると容量が減っていきます。スマートフォンの電池の持ち(=寿命)が次第に悪くなることを経験したことがあると思いますが、このことからも電池の劣化を実感できると思います。
 
この劣化の原因はさまざまあるのですが、その1つが電解質が徐々に分解してしまう(副反応を起こしてしまう)ことです。
 

高い分解耐性がある電解質を使える可能性

分解のしやすさは材料によって異なります。従来から使用されている液体系の材料だけでなく固体系の材料にまで選択範囲が広がれば、より分解しずらい材料を採用することができる可能性があります。
 
固体電解質にはリチウムイオンをスムーズに通すことと、高い分解耐性の両方の性質が求められます。ただし、こういった優れた材料の発見はなかなか難しいので、各研究機関や企業で開発が行われています。

分解の速度を極めて遅くできる可能性

電解液の分解は、言い換えると電解液が化学反応を起こしている状況です。化学反応はある材料が電極から電子を与えられたり(還元)、奪われたり(酸化)することで起こります。したがって、電解液の分解は電極と触れている部分で起こることになります。
 
分解が継続的に起こるときは、分解したものが電極から離れた位置に移動して行って、まだ分解されていないものが電極付近に寄ってきて分解されるという状況になります。液体は流動性が大きいため、こういった状況が起こりやすいです。
 
一方、それ自体の流動性がほぼない固体電解質を用いている全固体電池では、継続的な分解は起こりにくくなります。その結果、分解の速度が非常に遅くなり実用上の問題を回避することができる可能性があります。

特徴3:高エネルギ密度

全固体電池は従来のリチウムイオン電池よりも高エネルギ密度、つまり多くの電力を溜めることができるようにになる可能性があります。
 
まだ従来型のエネルギ密度を越える量産レベルの全固体電池が実現されていないのですが、その可能性を持つ理由について紹介します。
 
電池においてエネルギを溜めるのは正極と負極なので、電解質が液体から固体に変わってもエネルギ密度に変化はない気もするかもしれません。しかし、電解液が変わると電池全体としては容量が上がる可能性があります。
 
電池のエネルギ密度は簡単に書くと以下のような式で表されます。
 
(式1)
電池のエネルギ密度
 =(正極と負極にためるエネルギの量)/(正極体積+負極の体積+電解質の体積+容器や安全機構の体積)
 
エネルギ密度を上げるアプローチとして、初めに式1の分子を増やす方法、次に分母を減らす方法について紹介します。
 

従来使えなかった電極材料を使えるようになる可能性

前節で述べたように固体電解質にすることで、電解質の分解を抑えることができます。
 
高いエネルギ密度を持つ正極・負極の組み合わせは一般的に電解質の分解を引き起こしやすいという特徴があります。ここで、分解しずらい固体電解質を用いることで、従来の液系リチウムイオン電池では分解を引き起こす可能性が高くて使えなかった電極を使うという選択肢が増えます。
 
よって、より性能の良い電極を使うことで、式1の分子を大きくすることで、電池のエネルギ密度を上げることが期待できます。
 

電池の中に正極と負極をたくさん詰め込めるようになる可能性

前の節で述べ全固体電池では安全性が高いという特徴により、従来の液系リチウムイオン電池では必要だった安全機構を削減できる可能性があります。
 
式1の分母において、「安全機構」があることは貯めるエネルギ量を増やすことには寄与しません。よって、安全機構を減らしても安全性が担保できるのであれば、その分だけ式1の分母を小さくすることでエネルギ密度を上げることも理論的には可能です。
 

特徴4:高出力

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池と比べてより高い出力(大きな電流値)を実現できるようになる可能性があることが4つ目の特徴です。
 

濃度分極が起こりにくい

従来の電解液の場合、リチウムイオンだけでなく、ほかのイオンも移動します。そのため、動作中に電解液中に濃度分布が生じやすくなります。例えば大きな電流で放電しようとした場合、電解液中のリチウムイオンが速い速度で正極へ取り込まれるため、正極付近にはリチウムイオンの数が減ってしまいます。結果、リチウムイオンが正極に取り込まれるという放電反応が起こりにくくなり出力が低下します。
 
一方、全固体電池の固体電解質中では、動くのはリチウムイオンだけで他のイオンは移動しません。そのため、上記の例のような正極付近でリチウムイオンが減ってしまうような場合、移動していない陰イオンがリチウムイオンを引き寄せるため、リチウムイオンの欠乏が起こりにくくなります。その結果、出力が低下しにくくなることが期待できます。

脱溶媒和が不要になる

有機溶媒電解液系の場合、リチウムイオンは溶媒分子が配位した(くっついた)状態となっています。例えば放電反応の場合、リチウムイオンが正極材量の結晶の中(原子と原子の隙間)に入り込むことで放電動作を起こすことができます。そのためには、リチウムイオンは溶媒分子から離脱する(脱溶媒和する)必要があります。
 
固体電解質の場合は、溶媒分子は存在しませんので、リチウムイオンは脱溶媒和する必要はありません。
(※専門的には、脱溶媒和エネルギの有無が差として議論されます。電解液の場合は、脱溶媒和のためのエネルギが余分に必要になります。反応エネルギの大きさは反応速度の遅さを示しますので、全固体電池では反応が速くなる可能性があります。)
 
その結果、全固体電池ではリチウムイオンが電極は入り込むスピードが速くなり、高い出力を得ることができる可能性があります。
 

まとめ

このページでは全固体電池について紹介しました。
 
・全固体電池は次世代の二次電池として注目されている
・全固体電池はリチウムイオン電池の一種で、電解液を固体電解質に変えたもの
・メリットは、①安全性が高い、②長寿命・高容量・高出力を実現できる可能性があること