【リチウムイオン電池の電圧】端子電圧?公称電圧?放電終止電圧?満充電電圧?それぞれの関係

リチウムイオン電池の専門技術

リチウムイオン電池の説明には”電圧”と付く用語がたくさん出てきます。端子電圧、公称電圧、充電電圧、満充電電圧、放電終止電圧。。。いろいろあるけどいったい何が違うのか?それぞれの関係性はどうなってるのか?わかりにくいリチウムイオン電池の”電圧”に関する用語についてわかりやすく説明します。
まとめ
  • 端子電圧:ある瞬間に正極と負極の間に生じている電圧
  • 公称電圧:ある電池の端子電圧についての目安となる値
  • 放電終止電圧:放電させるときの端子電圧の下限値
  • 満充電電圧:充電させるときの端子電圧の上限値

 

端子電圧

端子電圧はリチウムイオン電池の正極と負極の間に発生する電圧です。ある瞬間に電池の電圧を電圧計で測定したときに得られる電圧値です。単位はボルト(英語:volts、記号:V)もしくはミリボルト(単位:mV)です。

端子電圧は、電池の正極と負極の間の電圧

リチウムイオン電池を使うときに端子電圧がどんなふうに変化するかを考えます。例えば、リチウムイオン電池を充電して、放電させたときの電圧と時間の関係図を下に示します。

terminal_voltage_change

図のように、満充電(フル充電)状態に近いほど端子間電圧が高く、放電させると(電池を使っていくと)端子電圧が下がってきます。
使えなくなった電池を充電していくと、端子間電圧が上がっていきます。

電池を使うときにはなるべく端子間電圧の変化が小さいほうが望ましいです。
電力を使用する装置側は電圧がある範囲であると想定して動くように設計されているので、その範囲から外れると装置を動かせなくなってしまいます。
しかし、他の二次電池とくらべて放電にともなう電圧変化が小さいことが特徴です。

端子間電圧は、使われている電池(正極と負極)の材料と、その電池の使い方によって変わってきます。

公称電圧

公称電圧は、端子間電圧の目安の値です。

上で説明したように、使用している間に端子間電圧が変化するとなると、ユーザーは「この電池は電圧いくつで動くのかがわからないので、電池を選んだり、電池を使って動かす装置を設計したらいいかわかりません」ってことになりますね。
よって、ユーザーのために端子電圧の値の目安として示されているのが公称電圧です。

”公称”という言葉が耳慣れないので、いまいちイメージをつかみにくいと思います。”公称”は英語でいうと”nominal(形容詞)”です。weblioによれば”nominal”は”名目の”という意味です。よって、”公称電圧”は、ざっくりいうと「厳密にはずっとこの値ではないんだけど、電池選んだり設計するときにはこの値ってことで考えてくださいね」という値です。

厳密としては、公称電圧(nominal voltage)とは、国際電気標準会議(IEC)で定められた規格IEC 61960によって、以下のように定義されています。

suitable approximate value of the voltage used to designate or identify a cell, a battery or an electrochemical system

これをもとに決められた日本の規格である”ポータブル機器用リチウム二次電池 JIS C8711“では

リチウム二次電池の電圧を指定又は同定するために用いる適切な電圧値。
(注)リチウム二次単電池 n 個を直列に接続した電池の公称電圧は,リチウム二次単電池の公称電圧の n 倍である

とされています。
※ここでのリチウムイオン二次電池と、このブログでの”リチウムイオン電池”は同じものを指しています。

公称電圧と端子電圧の関係を図1で見てみると、公称電圧は端子電圧の一番高いところと一番低い値の中間ぐらいになっています。
ですので、電池の減り具合によって端子電圧と公称電圧は異なります。
例えば、満充電に近い状態の電池では、端子電圧は公称電圧より高くなります。
逆に、充電してからずいぶん使った、もしくは充電が切れそうな状態では、端子電圧は公称電圧よりも低くなります。

電池を使っていってある値以下に電圧が下がってしまうと、電池切れ(電圧が低くて装置側を動かせない)状態になります。
電池が切れているかどうかを電圧を測定することで判別できるのはこのためです。

放電終止電圧

放電終止電圧は、これ以上放電して電圧が下がると劣化が起こるので放電をやめましょうという値です。カットオフ電圧とも呼ばれます。

放電(電池を使っていって)ある値以下に電圧が下がると、本来反応してはいけない電極の一部(正極活物質に含まれるコバルトや、負極の終電体の銅)が溶け出す反応が起こります。次に充電した際に、この溶け出した銅が析出(金属固体として出てくる)して、本来起こしたい正極や負極の反応を阻害してしまいます。これにより、電池の容量が下がるなどの劣化が生じます。

こういった劣化反応を避けるため、電圧が下がりすぎない範囲で放電するよう、放電終止電圧がたさめられています。

放電終止電圧の具体例

  • 正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を用いた場合:2.5 V程度
  • 正極にリン酸鉄リチウム、負極に黒鉛を用いた場合:2.0 V程度

満充電電圧

満充電電圧は、これ以上充電して電圧が上がると劣化がおこるので放電をやめましょうという値です。充電上限電圧とも呼ばれます。

充電をさせすぎて電圧が上がってしまうと、正極の電位が上がり、電解液が電気的に酸化分解されます。この反応により発熱が発生します。
さらに電池の温度が上がると、熱によりセパレータが収縮を起こし、それにより短絡が起こります。
さらに温度が上がると、電解液自体の熱分解反応や、電解液と正極および負極との反応、正極の結晶構造が壊れることによる酸素ガス放出による燃焼反応が起こり、加速的に発熱・分解が起こります。これを熱暴走と呼びます。

このように電圧が上がりすぎる充電のしすぎは、電池を危険な状態にさらすため十分に扱いには注意する必要があります。

満充電電圧の具体例

  • 正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を使用した場合:4.2 V程度
  • 正極にリン酸鉄リチウム、負極に黒鉛を使用した場合:3.5 V程度